カー・ディクスン名義

The Bowstring Murders
( Facsimile DJ)
William Morrow 1933 First

臨時増刊 「宝石」
黒い密室
妹尾 訳
昭和34年6月25日発行

弓弦城殺人事件
早川ポケットミステリ505
加島 祥造訳
昭和34年8月31日発行

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ディクスン・カー・ライブラリ

弓弦城殺人事件の登場です。カー・ディクスン名義の唯一の作品ということで有名で、かつ、僕の好みの初期に書かれたものなので、当然僕の中のランクは高いものになっています。
日本での初出は、右に上げた宝石の臨時増刊。黒い密室という洒落た邦題が与えられています。映画でもそうですが、やはりこういった翻訳の頑張りが嬉しいと感じるのは僕だけでしょうか。
もっとも最近の映画界では、輸入元からの一筆がうるさくなって、かってな翻訳は原作のイメージにそぐわないおそれがあるので、邦題は原題の音表記にしろと規制もあるようです。すなわちカタカナオンパレードとなっているということも耳にしました。
原作に登場する極めてカーっぽい世界は、秀逸。暗く冷たくばかでかい空間。目で直接的に確認できないふくらみを持つ舞台を描き出すカーの筆力には驚嘆します。スペースの広がりと、そこにある毒のある雰囲気、それが読者に伝わるのですから・・・。また、事件の中心に置かれた老人。衰えた容貌の中に異様に光る目が浮かんできます。
カーは、こういう爺様を描かせると、妙味を発揮します。若い女性は、決まって勝気でインテリ、かつ美貌。ステレオです。事件の語り部たる青年も、どちらかといえば読者より頭のめぐりは悪いが、フェアプレイにこだわりすぎるくらいの自信家で、女にめっぽう弱い。これまたステレオです。これら脇役は、ほんとにツマとしての性格描写で、逆に読者に安心を与えてくれる性格付けとなっています。反して、爺様、婆様のいきいきした演出。それに見事に答える演技。探偵さえ爺様が印象深い。カーは、こういう性格を埋め込んでも自然な年寄りが好きだったに違い有りません。
本作品も、爺様の天下です。