

この装丁にほれて、手元にした一冊です。
先進社大衆文庫に残る竹中英太郎デザインですが、本文に登場するキーキャラクタが表情豊かに描かれています。本文にも、挿絵が二点提供されており、こちらは線画で軽妙に描かれています。
この文庫には、江戸川乱歩作品の「名探偵・明智小五郎」の一冊もあり、そのカバーデザインの英太郎の画業は、これもまた味の有る仕上がりで有名だと思います。
もともとが、軽装版の文庫として出版されていた本のため、カバー付の本が残ることがまれなものだった思いますので、この状態は貴重な存在だろうと思います。
中の本文は、「神木の空洞」と「池水荘奇譚」の二作品が収められています。
「神木の空洞」は、ミステリーとしては、殺人などの血なまぐさいものではなく、主人公の作家が身の回りで体験したストーリーを記録した形態をとった佳作です。
夏に訪れた避暑地で、出会った美しい人妻が、嫁ぎ先で不幸な目(ある貴重品が紛失する)にあい、それを解決することになるものの、手際も悪く、やがて意外な解決がもたらされる。結論としては大団円を迎えるという仕合せなストーリーです。
この本の価値は、やはり英太郎の作品の残るところという点だと思います。
先進社:昭和5年4月10日発行


新小説社:昭和9年6月5日発行
沖積舎覆刻版:平成10年9月30日
沖積舎から出されている覆刻版を入手しました。
甲賀三郎の随筆集としてまとまっている一冊です。恩地孝四郎の装丁も美しく、これもまた装丁で撰んだ一冊といえます。
随筆としては、乱歩の探偵小説の定義などが秀逸でありますが、甲賀三郎も自説を本書で述べています。ただし、ここに載せられている意見は、犯罪トリックや、ミステリー小説のあらねばならない定義などに言及してはいません。犯罪に関する知識の披露にとどまっているようで、乱歩の自説の開陳に比べると見劣るといえると思います。
ただ、大正の作家で、このようなカテゴリーに集中した考えを持っていた人物が居て、その人物が作家として作品を残しているという点が貴重であると思います。
先達の業績を伺うことが出来る功著ではないでしょうか。
巻末に、甲賀氏の作品年表が乗っておりますので、ここに採録します。
「琥珀のパイプ」:春陽堂 大正15年7月18日
「欧米飛びあるき」:博文館 昭和2年2月15日
「恐ろしき凝視」:春陽堂 昭和2年3月20日
「荒野」:交同社 昭和4年1月15日
「現代大衆文学全集・甲賀三郎集」:平凡社 昭和4年2月1日
「探偵小説全集・甲賀三郎集」:春陽堂 昭和4年7月25日
「日本探偵小説全集・甲賀三郎集」:改造社 昭和4年10月3日
「幽霊犯人」:平凡社 昭和5年2月20日
「神木の空洞」:先進社 昭和5年4月10日
「電話を掛ける女」:新潮社 昭和5年9月17日
「明治大正文学全集・乱歩、不木、三郎、宇陀児集」:春陽堂 昭和6年8月15日
「盲目の目撃者」:新潮社 昭和6年9月7日
「盲目の目撃者」:春陽堂 昭和7年3月12日
「姿なき怪盗」:新潮社 昭和7年4月13日
「荒野の秘密」:春陽堂 昭和7年8月15日
「血染のパイプ」:改造社 昭和7年10月18日
「妖魔の哄笑」(前編):春陽堂 昭和8年1月25日
「妖魔の哄笑」(後編):春陽堂 昭和8年1月25日
「犯罪発明者」:新潮社 昭和8年6月15日
「犯罪・探偵・人生」:新小説社 昭和9年6月5日
竹中英太郎・装丁/挿絵